2020年2月23日日曜日

春を感じて


本番終了からたったの一週間。でも世の中はコロナ・ウィルス一色で、私もばたばたと働きました。それでも休日に稽古がなくなったので、家の近所を散歩する余裕ができました。私の家の周囲は武蔵野の自然が結構残っています。そこをぷらぷら歩くのはとても楽しいのです。今の季節は梅。紅梅、白梅が美しく、淡い香りが春の訪れを実感させてくれます。知り合いから、ふきのとうや、しいたけが送られてきて、母が天婦羅にしてくれました。視覚、嗅覚、味覚で春を感じる。本当に幸せです。

我が家裏手の梅の花

散歩コースの野川べり

桜のつぼみがそろそろ

川べりにはいろんな花が

水ぬるむ季節

そろそろ梅も終わりでしょうか

青空に映えます

2020年2月22日土曜日

サーカスの女王本番余話 その2


私たちガレリア座が心の底から誇れるもの。それは撤収の速さ、見事さです。音楽や芸術面でないのが残念ですが、到底アマチュアとは思えないこの迅速さは〝売り〟です。撤収への執念は仕込みの段階から始まっています。片付けを想像しながら仕込む。これです。使った道具はほったらかしにせず、元の場所に片づける。無駄に新しいテープを使わない。ごみを散らかさない。些細な気遣いの積み重ねが、撤収時のつけとして回ってこないのです。
本番に入ったら片付けへの執念は更に高まります。使い終えた小道具は、すぐに小道具の箱に収納します。衣装も然り。吊りバトンに吊ったパネルは飛ばさずに、そのまま幕間に撤去します。大道具も幕間には搬入口近くまで移動してしまいます。そうしていると、終幕には舞台袖に道具はもう何もないのです。素晴らしい!
終演後、客出しをしているうちに、オケのメンバーが総出で、リノリウムという舞台全面に敷いた巨大ゴム製カーペットを巻き、ジョゼット幕と呼ばれる白いレース幕を撤去してしまいます。搬入口にトラックが到着すると一斉に搬出作業が始まり、別動隊はオケピットの撤収に回るのです。今回、終演時刻1730分で、撤収完了はなんと19時。簡素な舞台とはいえ1時間半でオペラの舞台が片付くとは、ここだけはプロにも負けません。
「速い撤収、良い団体」 ガレリア座に刷り込まれた教えは、間違いなく国内オペラ団体の最高水準に達しています。満足、満足。

2020年2月20日木曜日

サーカスの女王本番余話 その1


音楽と動きの連動。私の一番のこだわりです。音楽とかけ離れた動きがいかに音楽劇の魅力を損なうか。今、ミュージカルに人気があるのも、きっと聴衆は、踊りを含めて音楽と合った動き、芝居、セリフ、照明など、やっぱり心地いいと感じるからではないかと思います。
今回、私がこだわったもののひとつが2幕フィナーレのオペラ・カーテン・ダウンでした。「オペラ・カーテン」、劇場によって「絞り緞帳」とも言います。赤い光沢のある布をドレープ状に上手下手の上方へ引き上げる幕のことです。これを備える劇場は必ずしも多くありません。理由は、高価だし、需要が多いとは言えないからです。でも、オペラやバレエをやるなら、このカーテンがどうしても欲しいのです。
舞台を暗くしたままでオペラ・カーテンを上げることを「ダークオープン」と呼びます。ダークオープンで開けておいて、1曲目の音の始まりと同時にカットインで明るい照明を当てるのは、じつに華やかで効果的です。「サーカスの女王」第1幕幕開けはこの手法を使いました。逆に第3幕では、前奏曲の最後で、無人の舞台を明るいままにしてオペラ・カーテンを開ける「ライトオープン」の手法を用いました。前奏曲の鳴っているうちから、聴衆をある日常へ自然に導くのが狙いです。前奏曲終わり間際でライトオープンさせ、曲終わりで、カール大公ホテルのロビーの電話をSE(サウンド・エフェクト=効果音)で鳴らしてみせて日常の空間を演出しました。ちなみに、今回の電話は、給仕長ペリカン役の北さんの動きを見ながら、1階席後方に陣取った音響さんが、呼び鈴の音を切って、受話器を上げる音を入れるという〝技〟を披露してくれました。
さて、話が戻って〝幕〟のことです。2幕フィナーレは、フェドーラへの愛をあきらめたミスターXがパーティー会場を去るシーンで幕切れを迎えます。ミスターXは、上手2尺8寸(約84㎝)の台上で、フェドーラに「ありがとう」と言い残します。このセリフの後に残る音楽は、正味1小節。その僅かな音楽の間に、ものすごい速さで幕を下ろしたい。私は音楽と幕の一致にこだわりました。
オペラ・カーテンはドレープ状のものを下ろすことから、通常の緞帳(これを「板緞」と言います)より時間がかかるのが通例です。ところが今回の会場「アプリコ」大ホールの緞帳は時間可変式で、しかも最速設定にすると、私のこの要求に答えられるのです。素晴らしい。はじめての会場稽古の際、私はダメ元で、「ありがとう」の後、幕のダウン・キュー(〝キュー〟は、合図、指示のこと)を伝えました。もちろん、マエストロ野町は十分心得ていて、いつもより少し長めに演奏を引っ張りました。そして、これ以上ないくらいドンピシャのタイミングで、幕が閉まると同時に音楽が鳴り終わったのです。ブラヴォー!やったぜ!音楽と舞台装置の一致。これもまた音楽劇の醍醐味。
ホールの舞台スタッフとのタッグが実った最高の瞬間でした。

2020年2月18日火曜日

本番を終えて


公演、無事、終了しました。ご来場いただきましたお客様、関係者の皆さま、本当にありがとうございました。私たちガレリア座の場合、通し稽古は公演前日にやります。本番当日の公演前は「小返し」といって、前日に上手くいかなかった箇所や、転換などテクニカル部分の調整に充てます。しかし、わがままな私は前日稽古の出来を見ながら、ふつふつと向上意欲が湧いてしまったのです。
もっとやりたい!とにかく良くしたい!本番日の小返しはそういう練習となりました。1幕フィナーレでミスターXとフェドーラが相対するシーン。メイン・カップルが気持ちを通じ合わせる大切なシーン。そう、私の大好きな「ばらの騎士」で、ゾフィーとオクタヴィアンのファースト・コンタクトのように、ここは台詞も歌もない。ただ、音楽だけが雄弁に語る。そうだ!ここは照明が二人だけに当たらなくてはいけないのだ!そこで、ああでもない、こうでもないと、あっちこっちのライトを照明さんに落としてもらって納得できるシーンに仕上げました。2幕フィナーレは、フェドーラがミスターXの裏切りを責め、ミスターXが自分は過去にフェドーラを愛した貴族であるその身分を明かすクライマックス。こここそ、我が一座オーケストラが劇伴の底力を見せなくてはなりません。スネアのひと叩き、ビオラの3拍目、フル・トゥッティのオケが楽譜に書かれたzurueckなる表記をどう演奏するか。オペラ、オペレッタが音楽劇である以上、その本質にこだわらなくて何のオペラ、オペレッタであるか。音楽、演出、照明、音響、舞台が一体となって表現する総合芸術を〝やる〟悦び。それを私は本番直前の小返しで堪能しました。そして本番はもちろんお客様のもの。お楽しみいただけましたでしょうか。

開演40分前の私の居場所は舞台下手

舞台監督席からの風景

2020年2月16日日曜日

開演ベルまで間もなく その2


本番を迎えます。本番会場の確保に始まり、楽譜のレンタル、訳詞作成、台本執筆などの水面下の作業を経て、稽古、稽古、ひたすら稽古。1年という時間がこの舞台を支えています。団員に加え、舞台、道具、照明、音響、受付など内外のスタッフが集結し、皆様をお迎えします。前日の最終通し稽古は、総練習の勢いそのままに、幸福だけど、どこか哀しいカールマンの世界観を良く表現できました。自画自賛ですけどね。日本ではまた当分お目にかかることがないであろう「サーカスの女王」。どうぞお楽しみください。あ、八木原の台本が長いので、上演時間は休憩を入れて約3時間半。腰を据えてじっくりとお楽しみください。
演出卓からの風景

2020年2月15日土曜日

開演ベルまで間もなく その1


さて、本番までのカウントダウンが始まりました。私と運搬主任の竹原君は、木曜日から高津さんで道具を借りたり、山梨の倉庫までナイト・ドライブをしたり動いていました。この動きが始まってしまうと本番終了まで矢のように早い。仕込みに協力してくれる団員諸氏が、オケピットづくりに、リノリウム敷きに、道具や幕の吊りこみに、道具の建て込みにと汗を流します。これこそ、アマチュア・オペラの醍醐味。みんなで作るのは音楽だけではないのです。舞台が仕上がると、あとは照明さんに舞台を渡します。今回もたくさんの照明ポイントが作られるのでしょう。わずか3時間の夢のために。頑張ります!
みんな力を合わせて

2020年2月10日月曜日

総練習を終えて


いい感じです。本当に、いい感じ。本番のちょうど一週間前となった2月9日。最後の総練習がありました。できるだけ実寸に近い会場を確保することはとても難しく、埼玉の奥まで出向いての稽古です。稽古というのは面白いもので、私たちのようなアマチュアがある程度、長い時間をかけて稽古していると、必ず中だるみの時期があり、そして本番直前にぐっと精度が上がります。ここまでできるなら、もっと早くこの水準にすればいいのにと、いつも思うのです。そして、かれこれ30年近くやってきて、絶対にそうならないことを知っています。でも、この瞬間が来るのが楽しくてやっていると言ってもいい。そんな感じです。総練習では絶対に決めたいところを徹底する。私のモットーです。たとえば序曲冒頭のオーケストラ。最初でこけると、ここから始まる音楽全部がへたくそだと思われてしまいます。大切なのは第一印象。とにかく最初の数小節は、命懸けで上手に演奏せよ!私の鉄則です。でも、本当にいい具合に仕上がってきました。あとは本番マジックを残すのみ。どうなりますやら。ご期待ください!
仕上がり上々!

2020年2月8日土曜日

ブリティッシュ・ナイト余話 その3


今回の「ベルシャザルの饗宴」には、新宿文化センターの誇る巨大なパイプオルガンが参加しました。わが国最初の本格的なカヴァイエ・コル型の大オルガンです。パイプ総数は5061本。ストップ数は70。フランスの歴史的名器を長年にわたり修復してきたアルフレッド・ケルン社の親方ダニエル・ケルン氏によって作成されました。「ベルシャザル」では、新宿文化センター専属オルガニストの高橋博子さんが、この名器をめいっぱい鳴らしてくれました。私もオケ合わせに立ち会わせていただき、オルガンとオーケストラのバランスをチェックしました。マエストロ・バッティストーニが引き出すオーケストラと合唱の迫力がものすごく、大オルガンもかき消されるくらい。高橋さんには、「大丈夫、もっとガンガン出していいです!」と促して、オルガンもフルスロットル。ホールいっぱいに大音響が渦を巻く、ウォルトンの壮絶な音楽絵巻を描き出しました。ご来場いただいた皆様は、オルガンの威力をご堪能いただけたのではないでしょうか。
新宿文化センターの大オルガン

2020年2月6日木曜日

ブリティッシュ・ナイト余話 その2


マエストロ・バッティストーニの紡ぐ音楽の魅力。たくさんの仕掛けがあると思います。私はそのなかでも、彼の作るフレーズ、その入り方と終わり方へのこだわりが好きです。先日の東京フィル定期の「幻想交響曲」。その第2楽章のワルツのメロディの切り方。あまり音を残さずにフッとすくうように切り上げる。まるで品の良い香水の残り香のように。マエストロにそのことを申し上げたところ、「そうそう、そうやったんです。いいでしょ?」って口ずさみながら、とっても嬉しそうでした。「ベルシャザル」の稽古でも、随所にそういう指導をされていたように思います。今回の演奏会で初共演となったチェロの三井静くんとのハイドンの協奏曲第1番。若者同士の溌溂とした演奏は、多くのお客様から素晴らしかったとのお声をいただきました。私にとって感動的だったのはその第2楽章。それはもう、繊細で、どうしたものかというくらい美しかった。初稽古で通した後、後打ちの2拍目と3拍目のトゥッティをどう演奏するか、マエストロがこだわって返しをしました。そこに敏感に反応する三井君もまた凄い。どうしたってテクニカルな両端楽章が目立つなか、研ぎ澄まされた感覚を静かにぶつけ合った二人の若者。あの中間楽章が私には忘れられません。
ブリティッシュ・ナイト プログラム

2020年2月5日水曜日

いざ、倉庫へ!


稽古も佳境に入ってきたこの時期、私にはプレイヤーとは違った忙しさがあります。ホールとの打合せ、照明・音響・舞台スタッフとの打合せ、借り出し道具の下見と手配、プログラムのご挨拶や解説の執筆。そして、毎回の本番前に必要になるのが、南アルプス市にあるガレリア座大道具倉庫の確認作業です。道具の搬出前に、どの道具を持ち出すのか、その道具が製作を依頼した大道具と寸法など合うのか、確認をする必要があります。2月にしては暖かいこの日。冬晴れの甲斐路を気持ちの良いドライブ(私は運転しませんが…笑)。昼過ぎに倉庫に着いて、階段の寸法が予定と違っていたことが判明し、急きょその場で対策を立てました。搬出する道具をまとめて作業は終了。昼ご飯は少し足をのばして清里まで。お気に入りのレストランROCKで、ソーセージ、ビーフカレーをたっぷりいただきました。ROCK自慢の麦酒も2杯ほど!さあ、いよいよ本番までカウントダウンです。

倉庫には過去の道具がたくさん!

清里では外せないROCK

旨い!清里ラガー

快晴ならあの山の向こうに富士山が…

2020年2月4日火曜日

ブリティッシュ・ナイト余話 その1


ここで紹介させていただいた、新宿文化センターで「ブリティッシュ・ナイト」と銘打ったコンサートが終わりました。毎年、私の勤める新宿文化センターでは一般公募の合唱団を編成し、プロのオーケストラと合唱作品をやっています。イタリアの俊英アンドレア・バッティストーニと、東京フィルハーモニー交響楽団とタッグを組んで今年が4年目。ヴェルディ「レクイエム」、オルフ「カルミナ・ブラーナ」、マーラー「千人の交響曲」と共演を重ねてきました。そして、今年は、エルガー「威風堂々」と、ウォルトン「ベルシャザルの饗宴」でした。これまでの3年と比べて「ベルシャザルの饗宴」は、あまり日本では知られていません。でも、20世紀最高の合唱作品の一つとカラヤンが評したこの作品を日本のファンに聞いてもらいたい、マエストロと私たちの願いが一致しました。ジャズの手法を含め、複雑な要素をたくさん含んだ本作は、演奏時間40分弱ながら、演奏は困難を極めます。マエストロはこの公演に至るまで、東京フィルの定期公演で来日する機会を利用して、2回も合唱団の事前稽古に新宿文化センターを訪れ、指導にあたってくれました。以前、「カルミナ」のときに新宿区立小学校を訪れ、児童合唱の指導をしたときもそうでしたが、音楽を一緒に作っていこう!という彼の献身的な姿勢に誰もが巻き込まれていくのです。小学生の子どもたちでさえ!「ベルシャザル」はその極み、頂点だったように思います。200人余の合唱団、オーケストラの上段、上手下手の二群に配された金管のバンダ、配置しきれずに下手仮設花道まで作った打楽器群、そして新宿文化センターが誇る都内最大級のカヴァイエコル型パイプオルガンが咆哮する巨大な音楽絵巻は間違いなく一つの音楽シーンだったと思います。(つづく)