2020年5月16日土曜日

きよしこの夜


今頃どうしてクリスマス?と笑われそうです。連休に外出できなかったのを良いことに身の回りの整理をしました。整理って、始めるとこれが作業膨大でなかなか終わらない。このところCD紹介に終始しているのもそのため。整理しているうちに懐かしいCDに出くわすのです。ザルツブルク近郊にオーベンドルフという小さな町があります。ここが有名なのは、「きよしこの夜」が生まれた場所だから。地区教会だったニコラウス教会の若き神父ヨセフ・モールが1818年のクリスマスのミサのためにと詞を書き、友人の音楽教師フランツ・クサヴァー・グルーバーが作曲したのが「きよしこの夜」でした。ニコラウス教会の跡地には現在、小さなチャペルが建てられています。小さな博物館のなかのお土産CDがこれです。演奏はオーベンドルフ・リーダーターフェル合奏団と合唱団。つまりは町の音楽隊です。とても良いです。温かい気持ちになります。幸せの尺度はそれぞれ。今年のクリスマスに再訪できるといいな。
ほっこりします

現在の小さなチャペル

小さな祈り

2020年5月14日木曜日

祈りのロッシーニ


大学時代、友人に誘われて、とあるアマチュアの合唱団に参加しました。そこで出会った曲がロッシーニ作曲の「小荘厳ミサ曲」(petit messe solenelle)でした。オペラで成功を収め、44歳にして作曲家を引退したロッシーニは、余生に僅かなピアノ曲や宗教曲を残しています。その人生の最晩年に作曲された「小荘厳ミサ曲」は、2台のピアノとハルモニウム伴奏による室内楽的作品として書かれ、のちに管弦楽にも編曲されました。ロッシーニらしいオペラティックさも具えながら敬虔な祈りに満ちています。ご紹介するのは管弦楽版。アントニオ・パッパーノ指揮、聖チェチーリア音楽院管弦楽団と合唱団による演奏です。特筆したいのは終局のアニュス・デイ。ロッシーニが終生愛した声種メゾ・ソプラノの独唱と合唱による深い祈りです。パッパーノは全曲を速めのテンポで押しながら、このアニュス・デイに来ると、ぐっとテンポを落とします。壮大な伽藍を埋めつくす真摯な音楽。管弦楽版だと宗教的色彩よりオペラっぽさが勝ってしまう演奏が多いなか、パッパーノの音楽への愛情と深い理解が心に届く名演です。
ロッシーニ最晩年の祈り

2020年5月13日水曜日

LPレコードをかけてみる


私がクラシックのレコード収集を本格化させた小学生高学年の頃は、まだLPレコードの時代でした。新しい録音だと2,500円前後。とても小学生には手が出ないので、1,000円から1,500円程度の廉価版がコレクションの主流でした。中古屋に出入りするようになったのは中学生だったか、高校生だったか。最近は、一周回ってLPの良さが認識され、ごく一部ではあるものの新しくプレスされる盤もありますが、時代の主流はストリーミング。あの大きなLP盤が主役に返り咲くことはないのです。良かったなあ。あの大きな紙のジャケット。〝ジャケ買い〟なんて言葉もあったくらいで、私もそういう衝動買いをしました。そんな〝ジャケ買い〟の1枚が、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ。有名な5番「春」と9番「クロイツェル」のカップリング。当時、あまり室内楽には興味がなかったのですが、スプリング・ソナタの鮮烈で豊潤な音に私は魅了されました。ジノ・フランチェスカッティのヴァイオリン、ロベール・カサドシュのピアノ。フランチェスカッティの演奏は、ティボー門下らしいエレガントさと、ヴァイオリニストだったイタリア人の父親譲りの歌ごころに溢れています。その演奏がジャケットの写真と、じつによくマッチしていて、何度もこのレコードを取り出して聞きました。今年の連休、外出控えのなか、久しぶりにLPでも聞こうかなと思ったときも、やはりこのレコードを手に取りました。慎重に黒い盤の端を持って、指紋がつかないように大切に、大切に。スタビライザーを乗せて、そっと針を落とす。ごそごそという針音の後に、あの瑞々しいヴァイオリンが!いいですよ、LPレコード。音楽とドキドキしながら向かい合っていた頃の気持ちが蘇りました。
みずみずしい音色です

2020年5月5日火曜日

知的発掘を楽しむ


私が公私ともにライフワークとして取り組んでいるのがオペレッタ作品の紹介です。もちろん「こうもり」や「メリー・ウィドウ」が素晴らしい作品であることは言うまでもありません。ですが、そればかりというのでは味気ない。シュトラウスでもレハールでも、知られていない作品はたくさんあります。そして、有名ではないオペレッタの作曲家たちもまだまだ。それを発掘して陽の目を見せるのが目下の私の楽しみであります。テノールの近藤政伸さんが、そんな私を「発掘ばかりやってる。」と評してくださいました。皮肉の方が強かったのかもしれませんが、私には純粋な誉め言葉にしか聞こえませんでした。知らない曲を聴く歓び。このCDはイスラエルの作曲家によるピアノ作品集です。20世紀の作曲家が5人取り上げられています。ヨアヒム・ストゥチェフスキ、セルジュ・ナトゥラ、ツヴィ・アヴニ、エデン・パルトス、モルデカイ・セター。まったく知りません。5人をまとめて評する危険はあるものの、総じて言えるのは作品を覆う静謐感と、西洋的でも東洋的でもない不可思議な浮遊感でしょうか。ピアノ作品だからかもしれません。演奏は、ヴァイオリニストとピアニスト、二足の草鞋をはくコーリャ・レッシング。演奏家であり、教育者である彼のもう一つの顔が、知られざる音楽の紹介者。博物館を訪れる気分で、ぜひ一聴を。

発掘は楽し

2020年5月2日土曜日

パタタス・アリオリを作ってみる


音楽と食事が人生の愉しみの私としては、不要不急の外出自粛はさほど苦にはなりません。外食ができないのはさみしいけれど、自宅で創作するのもまた楽しい作業です。今日はスペイン料理にチャレンジしてみました。料理といっても、私が作れる程度のもの。バルセロナを旅した折、どの店でも必ず食べた、じゃがいものにんにくソースかけ。それが、パタタス・アリオリ。甥っ子と、その親友と、私の3人で先を争って食べました。大人げないのですが、本当に旨い。スペイン料理は、シンプル・イズ・ベスト。じゃがいもは、ひと口大に茹でるか、揚げるか。どちらもありだそうです。そこにアリオリ・ソースをかけるだけ。魔法のソースも作り方は簡単。材料は、マヨネーズ、にんにくの擦ったもの、ビネガー、塩、胡椒、オリーブオイル。あとは好みで、牛乳やパセリ、レモン汁などという感じ。お店やお宅ごとの秘伝(笑)のレシピがあるそうです。あまりに単純なせいか、東京のスペイン料理屋であまり見かけたことがありません。が、バルセロナはどこの店にもありました。我ながら上出来!
バルセロナで食べたパタタス・アリオリ

こちらが自作のパタタス・アリオリ

2020年4月30日木曜日

初夏にバッハ


5月を目前にして東京も気温25度に迫る陽気になりました。何か清涼感のある音楽をと思っていたところに素敵なCDを見つけました。バッハのハープシコード協奏曲とヴァイオリン協奏曲をすべて網羅した5枚組のお得盤。ドイツのcpoというレーベルから出ています。ハープシコードの独奏と音楽監督がラルス・ウルリク・モルテンセン。演奏はデンマーク王立バロック管弦楽団《コンチェルト・コペンハーゲン》。1991年創立なので、まもなく30年目を迎える団体です。1955年生まれのモルテンセンは、デンマーク王立アカデミーでカレン・エングルンドに、ロンドンでトレヴァー・ピノックに師事しました。2台の協奏曲ではそのピノックが参加していて、モルテンセンとの師弟共演が聴き所です。アーノンクールやブリュッヘン、ビルスマを経て、ピノック、ガーディナー、コープマンなど、ここ50年ほどの演奏史のなかで、時代楽器、そしてその演奏法や解釈は日常のものとなりました。宗教曲と異なり、バッハの協奏曲は愉しみの要素が強い作品です。《コンチェルト・コペンハーゲン》はじつに軽快で、愉悦に富んだ演奏を聴かせてくれます。緩徐楽章の愛らしさもまた格別。サイダーのような涼やかさをぜひ!
サイダーのようにバッハ

2020年4月28日火曜日

贅沢は素敵だ


コロナ禍を戦争にたとえる政治家が多い。敵はウィルスだけではなく、人間の欲望も敵となりうるのでしょう。第二次大戦下の昭和15(1940)年、奢侈品等製造販売制限規則が実施され、官製標語として「ぜいたくは敵だ」のお札が町中に貼られたといいます。今は、「STAY HOME」ですが。そのお札の“敵”の前に、誰かさんが“素”と入れたんですね。「ぜいたくは素敵だ」。人間の仕掛けた愚かな戦争へのせめてものレジスト。ウィットやユーモアがなくては人間は生きられません。この厳しい状況のなか、なじみの西麻布のフレンチから《おうちでDiner》として届けられた美味しい贅沢を楽しみました。焼きたてのパンに、たっぷりのパテ・ド・カンパーニュ。牛ほほ肉の赤ワイン煮込みに鴨のコンフィ。王道のビストロ料理。シャンパンを添えて、優雅に音楽を聴きながら。敵が早々に退散することを願って。乾杯!

ビストロの定番が詰め合わせ