2020年4月30日木曜日

初夏にバッハ


5月を目前にして東京も気温25度に迫る陽気になりました。何か清涼感のある音楽をと思っていたところに素敵なCDを見つけました。バッハのハープシコード協奏曲とヴァイオリン協奏曲をすべて網羅した5枚組のお得盤。ドイツのcpoというレーベルから出ています。ハープシコードの独奏と音楽監督がラルス・ウルリク・モルテンセン。演奏はデンマーク王立バロック管弦楽団《コンチェルト・コペンハーゲン》。1991年創立なので、まもなく30年目を迎える団体です。1955年生まれのモルテンセンは、デンマーク王立アカデミーでカレン・エングルンドに、ロンドンでトレヴァー・ピノックに師事しました。2台の協奏曲ではそのピノックが参加していて、モルテンセンとの師弟共演が聴き所です。アーノンクールやブリュッヘン、ビルスマを経て、ピノック、ガーディナー、コープマンなど、ここ50年ほどの演奏史のなかで、時代楽器、そしてその演奏法や解釈は日常のものとなりました。宗教曲と異なり、バッハの協奏曲は愉しみの要素が強い作品です。《コンチェルト・コペンハーゲン》はじつに軽快で、愉悦に富んだ演奏を聴かせてくれます。緩徐楽章の愛らしさもまた格別。サイダーのような涼やかさをぜひ!
サイダーのようにバッハ

2020年4月28日火曜日

贅沢は素敵だ


コロナ禍を戦争にたとえる政治家が多い。敵はウィルスだけではなく、人間の欲望も敵となりうるのでしょう。第二次大戦下の昭和15(1940)年、奢侈品等製造販売制限規則が実施され、官製標語として「ぜいたくは敵だ」のお札が町中に貼られたといいます。今は、「STAY HOME」ですが。そのお札の“敵”の前に、誰かさんが“素”と入れたんですね。「ぜいたくは素敵だ」。人間の仕掛けた愚かな戦争へのせめてものレジスト。ウィットやユーモアがなくては人間は生きられません。この厳しい状況のなか、なじみの西麻布のフレンチから《おうちでDiner》として届けられた美味しい贅沢を楽しみました。焼きたてのパンに、たっぷりのパテ・ド・カンパーニュ。牛ほほ肉の赤ワイン煮込みに鴨のコンフィ。王道のビストロ料理。シャンパンを添えて、優雅に音楽を聴きながら。敵が早々に退散することを願って。乾杯!

ビストロの定番が詰め合わせ

2020年4月25日土曜日

思い出に浸る


不要不急の外出…なんて特にないので、この機会に買いだめてあるCDを聴き漁っています。今日もその中から。2018年の年末にイタリアのヴェローナに行きました。仕事仲間の指揮者アンドレア・バッティストーニのご実家です。美味しいレストランを彼から教えてもらい、とても楽しい旅でした。2020年のヴェローナ音楽祭は彼の出番が多いそうなので、できれば再訪して音楽祭に行きたいと思っていたのですが、このコロナ禍でどうなるのかしら。ザルツブルグ音楽祭は5月に開催の有無を決定するそうです。オーストリア国内は収まるとしても、海外からの客を見込んでいる夏の音楽祭だから、ヨーロッパどこでも開催は難しいのではないでしょうか。2018年のヴェローナで買ったのが、2016年の音楽祭のハイライトCD。僕はこの類を“お土産CD”と言って、あまり手を出さないのですが、「トゥーランドット」をバッティが振っていたので、おお!と思わず購入。“お土産CD”ですが、演奏は一流。「アイーダ」はダニエル・オーレンの指揮。「椿姫」はカルロ・リッツィの指揮と、とても贅沢。良いとこどりなので、聴き休む暇がないですね。バッティの「トゥーランドット」は、カルロ・ヴェントレの輝かしいアリア「誰も寝てはならぬ」が聴きものでした。いつの日か、あの美しいアレーナで聴けることを願うばかりです。

円形劇場アレーナ

有名なジュリエットのバルコニー

贅沢なラインアップのお土産CD

2020年4月23日木曜日

ディナミーデン


Dynamiden。ワルツ王ヨハン・シュトラウスⅡの弟、ヨーゼフ・シュトラウスが作曲したワルツで、1865年に初演されました。当時、ウィーンの至るところで、さまざまな階級、業種の舞踏会が開かれていました。このワルツは工業舞踏会のために作られました。ディナミーデンとは、カールスルーエの工業大学教授フェルディナント・レッテンバッハーによる造語で、原子や分子が引き合う力を意味した単語だそうです。私が毎年、元旦はザルツブルグで過ごし、カメラータ・ザルツブルグのニューイヤーコンサートに出かけているため、オーストリアにいるのにウィーン・フィルのそれは日本に帰ってきてからブルーレイを購入して視聴しています。2020年ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートをつい先日、ようやく視聴して、私のこのお気に入りのワルツがアンコール前の最後に演奏されているので嬉しくなりました。この作品の第1ワルツが、同じシュトラウス姓のリヒャルトの方の歌劇「薔薇の騎士」オックス男爵のワルツとして登場するからです。粗野で高慢な貴族として登場するオックス男爵に充てられた最高に優雅なワルツ。元帥夫人マルシャリンの不貞が世間に知られる間際に、事態に気づいた男爵は事情を全部胸に収めるのです。貴族の矜持とでも言いましょうか。リヒャルトがこのワルツをオックスに充てた意味がよくわかります。2020年の指揮者はアンドリス・ネルソンス。2019年のティーレマンとは異なり、じつに楽しそうにドライブしています。指揮棒ではなく、手で表現するシーンも多く、このワルツもじつに繊細です。ティーレマンなら耳だけで十分ですが、ネルソンスの嬉しそうな顔は見る価値あり。映像での視聴をおすすめします。

ウィーンの粋

2020年4月18日土曜日

アップルパイ


私の好物です。幼い頃、洋菓子店に今ほどケーキの種類がありませんでした。いわば、ショートケーキ、モンブランとアップルパイが勢力図のすべて。子どもには、モンブランの良さはわかりませんから、ショートケーキとアップルパイが二大勢力。でも、近所の洋菓子店の生クリームと相性の悪かった少年の私は、アップルパイに軍配を挙げていました。ほぼ一択。オーストリアに行っても、チョコレートのザッハトルテよりは、エステルハージ・トルテか、アップフェル・シュトゥルーデル(つまりアップルパイ)を好んで食べます。生クリームをたっぷり添えているのが日本との違いです。さて、そのアップルパイ。先日、母の誕生日にリクエストがあり、近所にできたパン屋さんのアップルパイをカットしない状態で注文しました。ここのは丸型ではなく、棒状のパイ。生地がサクサクとして、リンゴが素晴らしく甘酸っぱい。好きなだけの大きさに切り分けて美味しく頂きました。
美味しかった!

2020年4月16日木曜日

視覚に訴える音楽


映像や照明を伴わないクラシック音楽のコンサートにとって(最近、プロジェクション・マッピングを使うコンサートもありますが)、視覚的効果はあるのでしょうか。私は確実に言えます。「ある」のです。最初の体験は「第九」でした。第4楽章。例のバリトンソロの始まる直前。オーケストラの強奏とともに立ち上がるバリトンと合唱団。全身にぞわっという感覚が走りました。緊張と高揚感。カッコイイ!これがコンサートの視覚的効果。わかりますよね。指揮者の目線やタクトの一閃もこれと同じ。だからこそ、音を度外視してもサントリーホールのP席が売れるのです。最近買ったCDに、ベルリオーズの「レクイエム」があります。ジョン・ネルソン指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏で、ベルリオーズ没後150年の命日にロンドンのセント・ポール大聖堂で行われたライブ映像がおまけDVDとしてついていました。CDに付録としてDVDを付ける神経がわからん。映像を見るのを後回しにしていたのですが、コロナウィルスのせいですっかり暇を持て余し、このおまけを見ることにしたのです。おお!視覚に訴える音楽。このおまけが凄かった。馬鹿にしてすみません。広大な大聖堂の中心に陣取る巨大なオーケストラ。二つの合唱団の前に横一列に並ぶ圧巻のティンパニ奏者10人。そして客席後方に4組のバンダ。ベルリオーズの狂気の音楽に、音響の伽藍と化した大聖堂がネルソンのタクトのもと揺れ、鳴り、響くのです。カッコイイ!見る音楽。ぜひお試しください。

視覚も満足



2020年4月12日日曜日

ワルターの運力


運力、“うんりき”と読みます。ヴェルディの歌劇「運命の力」を略して“うんりき”。我らガレリア座も2010年の第23回公演で取り上げたヴェルディ中期の傑作です。CDも映像も数多く残されています。そのなかで私のお気に入りが、ブルーノ・ワルター指揮のメトロポリタン歌劇場、1943年の実況録音です。昔のメトは、今とは比べ物にならないほど、大物指揮者がこぞってタクトを振り、素晴らしい音楽が鳴り響いていたようです。ワルターといえばモーツァルト、あるいはベートーヴェンの「田園」のように、どちらかといえば微温的な作品のイメージが一般ですが、この“うんりき”を聴けば、録音や人物イメージがいかにあやふやなものか分かります。序曲からとにかくすごい。直線的、男性的、テンポに一切の妥協を許さず、トスカニーニをも凌ぐ切れ感、そして終盤にかけてのドライブ感は半端ではありません。この序曲だけで、何回、聴き直したことか。今、手に入るのでしょうか。わかりませんが、もし、運よく手に入るのであれば、一聴されることをお勧めします。
聞いてみなけりゃわからない