2018年6月8日金曜日

アンドレア・バッティストーニのショスタコーヴィチ


40代前半までかなりの数のコンサートに通いました。休みの日などは、マチネで東京芸術劇場、ソワレでサントリーホールとか、平気でした。一流の芸術家たちと同じ空間、時間を共有する贅沢を堪能しました。仕事やガレリア座の活動が忙しくなり、気力や体力も限りがきて、いつの間にかホール通いの習慣がなくなりました。実演に接する機会が、極端に減っていきました。いや、正直に言えば、すごい演奏家を十分に聴いたので、なかなかそれ以上の感動が得られなくなってしまったのです。
バーンスタイン/イスラエル・フィルのマーラー9番。クライバー/バイエルン国立歌劇場の「ばらの騎士」。アバド/ウィーン国立歌劇場の「ランスへの旅」。
カラヤン/ベルリン・フィル、ホロヴィッツ、チェルカスキー、パヴァロッティ、最盛期のグルベローヴァやノーマン、カール・デンヒ監督時代のウィーン・フォルクスオーパー、ゲルギエフが立ち上げたサンクトペテルブルク白夜祭。
まだまだ挙げればきりがありません。本当に楽しい日々でした。

でも、ここにきて、とてつもない音楽をする刺激的な芸術家が現れました。指揮者のアンドレア・バッティストーニです。まだ30歳というこのイタリアの若者、いったいどうやって音楽性を身につけたのか。私は彼に心酔しました。十数年ぶりに東京フィルの定期会員にも復活し、コンサート・ゴアーズに返り咲きを果たしました。もし、まだ彼を聞いたことがなければ、ぜひ一度、聞いてほしい。
私が注目したいのは彼の作り出す静寂です。
5月31日のサントリーホール定期は圧巻でした。曲目はショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲と交響曲第5番「革命」。両曲の第3楽章が、この夜の白眉でした。どこまでも静かで、冷たく、そして恐ろしい。極北の海、闇の中、生命が音もなく消えて呑み込まれていくような、底なしの怖さ。躍動的なスコアの凄さが強調されがちなマエストロの真の力量がここにあるのです。

今年、マエストロを聴く機会がたくさんあります。オペラも「メフィストーフェレ」「アイーダ」と、2本も体験できます。海外の有力エージェントが彼に興味を持っているので、日本国内で彼を聴く幸せがあと何度あるのか、私は心配です。
演奏会は一期一会。感動を味わえるのは、わずか二千人弱の聴衆だけ。私は通い詰めます。
マエストロ・バッティストーニ

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