2020年2月20日木曜日

サーカスの女王本番余話 その1


音楽と動きの連動。私の一番のこだわりです。音楽とかけ離れた動きがいかに音楽劇の魅力を損なうか。今、ミュージカルに人気があるのも、きっと聴衆は、踊りを含めて音楽と合った動き、芝居、セリフ、照明など、やっぱり心地いいと感じるからではないかと思います。
今回、私がこだわったもののひとつが2幕フィナーレのオペラ・カーテン・ダウンでした。「オペラ・カーテン」、劇場によって「絞り緞帳」とも言います。赤い光沢のある布をドレープ状に上手下手の上方へ引き上げる幕のことです。これを備える劇場は必ずしも多くありません。理由は、高価だし、需要が多いとは言えないからです。でも、オペラやバレエをやるなら、このカーテンがどうしても欲しいのです。
舞台を暗くしたままでオペラ・カーテンを上げることを「ダークオープン」と呼びます。ダークオープンで開けておいて、1曲目の音の始まりと同時にカットインで明るい照明を当てるのは、じつに華やかで効果的です。「サーカスの女王」第1幕幕開けはこの手法を使いました。逆に第3幕では、前奏曲の最後で、無人の舞台を明るいままにしてオペラ・カーテンを開ける「ライトオープン」の手法を用いました。前奏曲の鳴っているうちから、聴衆をある日常へ自然に導くのが狙いです。前奏曲終わり間際でライトオープンさせ、曲終わりで、カール大公ホテルのロビーの電話をSE(サウンド・エフェクト=効果音)で鳴らしてみせて日常の空間を演出しました。ちなみに、今回の電話は、給仕長ペリカン役の北さんの動きを見ながら、1階席後方に陣取った音響さんが、呼び鈴の音を切って、受話器を上げる音を入れるという〝技〟を披露してくれました。
さて、話が戻って〝幕〟のことです。2幕フィナーレは、フェドーラへの愛をあきらめたミスターXがパーティー会場を去るシーンで幕切れを迎えます。ミスターXは、上手2尺8寸(約84㎝)の台上で、フェドーラに「ありがとう」と言い残します。このセリフの後に残る音楽は、正味1小節。その僅かな音楽の間に、ものすごい速さで幕を下ろしたい。私は音楽と幕の一致にこだわりました。
オペラ・カーテンはドレープ状のものを下ろすことから、通常の緞帳(これを「板緞」と言います)より時間がかかるのが通例です。ところが今回の会場「アプリコ」大ホールの緞帳は時間可変式で、しかも最速設定にすると、私のこの要求に答えられるのです。素晴らしい。はじめての会場稽古の際、私はダメ元で、「ありがとう」の後、幕のダウン・キュー(〝キュー〟は、合図、指示のこと)を伝えました。もちろん、マエストロ野町は十分心得ていて、いつもより少し長めに演奏を引っ張りました。そして、これ以上ないくらいドンピシャのタイミングで、幕が閉まると同時に音楽が鳴り終わったのです。ブラヴォー!やったぜ!音楽と舞台装置の一致。これもまた音楽劇の醍醐味。
ホールの舞台スタッフとのタッグが実った最高の瞬間でした。

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